めぐみロード デビュー編

1 めぐみ、プロレスラーになる

「えー!プロレスラーになるだってー!」
「うん。入団テスト受けたら合格しちゃったの」
あっさり言うめぐみに、秀男は驚いた。
彼の名前は芦田秀男。そして秀男と話しているのは武藤めぐみ。
二人は世間で言う幼馴染で、めぐみとは幼稚園からの付き合いである。
めぐみは小さい頃はよく人見知りがちで、一人でいることが多かったやや孤独な女の子である。
秀男はそんなめぐみが気になってしまい、よく世話を焼いていた。
やがて二人は成長し、めぐみはその頃にはある程度の友人は出来ていたので秀男は安心していた。
そして、秀男が高校を卒業し、スポーツジャーナリストになることを報告するためにめぐみに会いに来たら、プロレスラーになるというめぐみの報告が待っていた。
「しかし、何だって入団テストなんか受けたんだ?」
「エヘヘ、実はね……」
めぐみは入団までの経緯を説明した。
高校1年の春休み、めぐみは友人達と東京に遊びに行った。
友人達とは別行動(といっても友人達はカップルだった)していためぐみは
(今頃エミは彼氏と楽しくしてんだろうな〜。あ〜あ、これだったら秀も誘っときゃよかった)
と思いながら町をぶらぶらしていた。
その時、めぐみは自分と同年代の少女に道を尋ねられた。
話を聞いてみると、彼女はプロレスラーになるために新日本女子プロレスの入団テストを受けに行くとのことだった。
それを聞いためぐみは面白そうだなと思い、彼女と一緒に入団テストを受け、見事合格したというわけである。
「お前、いろんな意味ですごいな。で、両親は何て?」
説明を聞いた秀男は、改めてめぐみの凄さに驚きつつ、親の了解について尋ねた。
「うん、母さんと父さんも「お前の人生だから」ってOKしてくれたし、もう退学届け出してきちゃった」
「行動早いな!それにしても、お前の両親は本当に寛大だな〜」
秀男はめぐみの行動の速さよりも、めぐみの両親の寛大さに半分あきれてしまった。
昔からめぐみの両親は放任主義で、それがめぐみの性格に繋がってしまった。
「でもなめぐみ。プロレスをやるからには、絶対逃げ出したりするんじゃねえぞ」
「分かってるわよ、秀こそスポーツジャーナスト辞めるんじゃないわよ」
二人はそう言って、お互い頑張っていこうと誓った。
その夜、秀男はめぐみのプロレスラーとしての姿を想像していた。
(リング上を飛び回るめぐみ、技が決まって喜ぶめぐみ、締め上げられて苦しむめぐみ、苦痛に耐え涙を流すめぐみ、絞め落とされて舌を出すめぐみ、めぐみのリングコスチュームの・・って何想像してんだ俺は!)
途中いやらしい想像も混じりながらも、最終的にはめぐみがチャンピオンになる姿を想像した。
(めぐみ、俺は応援するぞ。そしてお前の活躍をバッチリ撮ってやる!)
秀男はスポーツジャーナリストとして、めぐみを支えていくことを決意した。

2 めぐみ、デビュー戦

めぐみが入団して2ヶ月、秀男もスポーツジャーナリストとして活動しており、プロレス団体の練習風景や試合などを撮影していた。
(新女の撮影ではめぐみの姿ばかり撮影してしまい、オフの日にあっためぐみにそれを見られ、顔を真っ赤にしながら怒られてしまったが)
そして、めぐみのデビューが決まり、秀男は会場でめぐみのデビュー戦を撮影するために最前列の席にいた。
(ちなみにチケットはめぐみからもらった(「少しでも取材のネタあるかも」と言われた))
「めぐみは2試合目か・・・・・・相手は富沢レイ・・・・・・」
秀男が情報を整理していたとき、第1試合「結城千種VSキューティー金井」が始まった。
千種のリンコスは赤いビキニと緑のV型のワンピースを合わせたもので、ワンピース型の金井のと比べるとプロレスにはやや不釣合いだった。
千種は動きがやや硬く、いかにも新人という印象だった。
「あの子が結城千種か。スタイルは投げか」
秀男はそんなことを思いながらも、試合を撮影していた。
試合は両者ほぼ互角に進み、何度か千種優勢の場面があったが、最後は金井のノーザンライトスープレックスで千種を沈め、勝利した。
そして、いよいよ秀男にとってのメインイベント「武藤めぐみVS富沢レイ」が始まった。
めぐみのリンコスは赤のストラップレスのハイレグワンピースで、めぐみにはピッタリ(秀男の感想)だった。
一方レイのコスはセーラー服型のワンピースと、正にコスプレファイターの異名通りだった。
めぐみは千種と比べると動きが柔らかかったが、やはり新人という印象だった。
試合はレイ優勢で進み、5分を過ぎた頃、めぐみはリング中央でレイに逆エビ固めを極められていた。
「ギブアップ?」
「ノー・・・・・・ノー・・・・・・」
めぐみは腰の痛みに苦しみながらも耐え、懸命にロープに滲み寄った。
「くっ、美加だったらもう泣き出してるのに、新人のくせにしぶといわね。」
レイは逆エビをさらに絞り上げ、めぐみの体はほぼ90度曲がった。
「あぁぁぁー!」
めぐみはあまりの激痛に悲鳴を上げながらも、懸命にロープにより、ブレイクした。
「なかなか根性あるわね」
レイはそういうとめぐみを起こし、ロープに振り、ラリアットを当てようとした。
「やられてばかりでたまるかー!」
めぐみはラリアットをかわすと、レイの背後からローリングソバットをお見舞いした。
「ぐは!」
めぐみはロープの反動を利用し、ドロップキックを食らわし、ひるんだ隙にアームホイップで投げ飛ばした。
「く・・・・・・調子に乗るんじゃないわよ」
レイは起こそうとしためぐみにエルボーを食らわすと、S式バックブリーカーをお見舞いした。
「がは!」
逆エビで痛めた腰への攻撃に、めぐみは腰を押さえて悶絶していた。
その様子を秀男は心配そうにしながらも撮影した。
「さあ、これで決めてあげるわ!」
レイはめぐみの足を取ると、サソリ固めを極めた。
「うああぁぁぁぁー!!・・・・・・あ・・・・・・」
腰への激痛にめぐみは悲鳴を上げた後、リングに縫い付けられたように動けなくなっていた。
「さあ、早くギブアップしなさい」
「ま・・・・・・まだ・・・・・・」
めぐみは涙を流しながらもギブを拒否し、懸命にロープに向かった。
「新人のくせに粘るわね!こうなったら絶対ギブさせるから!」
レイは腰を落としてサソリを深く極めた。
逆エビ、S式バックブリーカー、サソリ固めと、めぐみの腰は限界だったが、めぐみは必死でロープに向かった。
「めぐみ、もう少しだぞがんばれ!」
秀男はギブをこらえて必死にロープに向かおうとするめぐみを応援しながら撮影した。
「あ・・・・・・あと少し・・・・・・」
めぐみの指先は振るえ、腰は限界を超え、涙で視界は曇り、ほとんど気力だけでロープに向かっていた。
そして、その手が遂にロープに触れようとした瞬間、めぐみは意識を失い、動かなくなった。
「なんて娘なの、失神するまで耐えるなんて」
レイは試合には勝ったものの、めぐみの意地に驚いていた。
「めぐみ、よくがんばったな」
めぐみの試合の撮影を終えた秀男はそう思った。
そして後日、秀男はめぐみに会いに来た。
「めぐみ、この前はよくがんばったな」
「そう・・・・・・ありがとう・・・・・・」
めぐみの返事はあまり覇気がなく、かなり落ち込んでいるのが分かった。
「何だよ、まだデビュー戦のこと気にしてんのか」
「そ・・・・・・それは・・・・・・」
「失神したからなんだ!新人なんだからそんな簡単に勝てるわけ無いだろ!」
「分かってるわよそんなこと!ただ・・・・・・秀に見られたのが・・・・・・その・・・・・・」
顔を真っ赤にして口ごもるめぐみを見て、秀はめぐみが落ち込んでた理由が分かった。
「そうかめぐみ、お前俺に失神を撮影されたのが恥ずかしかったのか」
「ち・・・違うわよ!チケット渡してみてもらいに来たのにあんな結果になったのが悔しかったのよ!」
「めぐみ、レスラーなんだから失神以外にもきわどいシーンもこれからいっぱい見られるんだから、そんなんで恥ずかしがるな」
「だから恥ずかしかったんじゃないわよ!」
二人のやりとりはしばらく続いた。
「めぐみ、そんだけ元気なら大丈夫だな。応援するから頑張れよ」
「当たり前よ。その内ベストショットを秀に撮らせてあげるわよ!」
そう言って、二人は笑いあった。

3 めぐみと千種 初対決

めぐみはデビュー試合から、シリーズに出続けたが、
2戦目 VSキューティー金井(優勢な場面もあったが、最後は北斗原爆固めでフォール負け)
3戦目 VS永原ちづる(序盤からジャーマンを受け続け、原爆固めでフォール負け)
4戦目 VS越後しのぶ(何度か反撃の場面があったが、延髄切りからの片エビ固めでフォール負け)
と、負け続きだった。
そしてシリーズ最終戦は「武藤めぐみVS結城千種」と、新人同士の試合になった。
リング上ではめぐみと千種が向かい合っていた。
「めぐみ、最後くらいはビシっといい試合で決めちゃおうよね」
「千種こそ、頑張って、お互いいい試合をしようねっ」
二人がそう言って握手をしたあとに、試合開始のゴングが鳴った。
(新人同士の初対決か・・・・・・お互いどんな技が飛び出すのやら)
秀男はそう思いながら、試合を撮影した。
試合は二人が中央で組み合ったあと、千種がエルボーで先制攻撃をした。
「いくよめぐみ!」
千種はめぐみをボディスラムで投げると、めぐみの足を捕らえ、逆エビ固めを極めた。
「くあぁぁぁ・・・・・・」
「めぐみ、ギブアップ?」
千種はそういいながら腰を落としていき、めぐみの体を反っていった。
「く・・・・・・まだまだ・・・・・・」
めぐみはロープに滲みより、ブレイクした。
「富沢さんと比べたら全然たいしたこと無いわね」
めぐみはそういうと千種をロープに振り、自分もロープの反動を利用してドロップキックを見舞った。
「ぐっ」
「逆エビの御礼をするからね」
めぐみは倒れた千種を起こすと後ろに回り、スリーパーホールドを極めた。
「千種、ギブアップ?」
「ノー、ノー」
それを聞いためぐみは千種の体をゆすりながら締め上げた。
「く・・・この!」
千種は意識が朦朧となりながらも、めぐみの腹にエルボーを打ち込んで、スリーパーから脱出した。
「お返しよめぐみ!」
千種はめぐみをロープに振り、ラリアットをめぐみの首に放った。
「ぐわ!」
「まだまだ」
千種はめぐみを起こすとブレーンバスターで投げ飛ばした。
「もう一発!」
千種はめぐみを起こし、再びブレーンバスターで投げ飛ばした。
「もう一回!」
千種は再びブレーンバスターを放とうと、めぐみを起こした。
「そうはいくか!」
めぐみは踏ん張って千種を止め、逆にブレーンバスターで投げ飛ばした。
「きゃっ!」
間髪いれずめぐみは千種を起こすとヘッドロックを極めた。
「千種、ギブ?」
「う・・・ノー・・・」
千種はギブを拒否しながらも、めぐみの腰に両腕を回した。
「めぐみ、これで決めるよ!」
千種はめぐみをバックドロップで投げ飛ばした。
「うわあぁぁぁ!」
めぐみは投げ飛ばされ、そのままフォールされたが、2で返した。
「そんな技覚えてたの千種」
「今までは出す前に負けちゃってたからね」
千種はめぐみを起こすと、今度はフロントスープレックスで投げ飛ばした。
「がはっ!」
バックドロップのダメージが大きかったのか、めぐみは動くことが出来なかった。
「めぐみ、終わらせるよ」
千種はめぐみに覆いかぶさり、フォールした。
(負けちゃう・・・・・・そんなのいや!)
めぐみは必死で体を動かし、2.9で返した。
「返すなんて、でもこれでおしまいよ」
千種はめぐみをおこし、バックドロップで投げ飛ばそうとした。
「同じ手はくうかー!」
めぐみは体を入れ替え、ボディプレスで千種をつぶした。
「ぐは!」
「千種、あたしも出してない技があるのよ!」
めぐみは千種を起こし、ローリングソバットで千種を怯ませるとロープに振り、自分もロープの反動を利用して、千種にフライングニールキックを見舞った。
「あぁぁ!」
千種はそれをもろ顔に受け、リングに倒れこんでしまった。
すかさずめぐみは千種を押さえ込み、3カウントを奪った。
「「やったー」」
初勝利にめぐみはもちろん、撮影していた秀男も喜んだ。
「めぐみ、強いね。次は負けないからね」
「千種も強かったわよ、これからもお互い頑張っていこうね」
二人はお互いの健闘とたたえたあと、リングをあとにした。
(あの二人、これからに期待大だな)
撮影しながら、秀男はそう思った。
後日、秀男の撮影した記事はプロレス雑誌に掲載された。(モノクロでとても小さかったが)
秀男はそれをめぐみに見せに来ていた。
「秀、けっこう綺麗に写ってるじゃない」
「当たり前だよ。そうじゃなかったら何のためのジャーナリストだよ」
そう言い合いながら、雑誌の記事を読んでいた。
とそこへ千種がやって来た。
「めぐみ、その人誰?」
「ああ、彼はね・・・・・・」
めぐみは千種に秀男のことを説明した。
「ふ〜ん、うらやましいなー、めぐみにはこんないい彼氏がいてさ」
「か・・・彼氏って、違うわよ!」
「嘘、だってあんなにめぐみばっかり撮ってるのに?」
「千種、どういうこと?」
「えっ?知らなかったの。あのね・・・・・・」
千種はめぐみに説明した。
それによると秀男はめぐみの試合のときは必ずめぐみを優先して取り、やられている時には必死に応援しながら撮影し、それがセコンドから丸見えだったとの事。
それを聞いためぐみは顔を真っ赤にして秀男を睨み付けた。
「秀!あんた何恥ずかしいことしてんのよ!」
「でも、それがあったからこんなに綺麗に取れるんだぞ」
「そうだけど!あたしたちのこと誤解されちゃってるじゃない!」
そんな二人のやり取りを見ながら、千種は
「あの二人、やっぱりそういう関係なのね。秀男さんって羨ましい」
と思った。